肥満は人間だけではなく、ネコやイヌにも多く認められる一種の病気です。

いずれのペットでも雄よりも雌の方が、そして避妊/去勢した場合や年齢が高くなった場合に肥満傾向が強くなります。

また、イヌでは品種によっても肥満傾向に差があるようですが、ネコではさほど明確な品種との関連は認められていません。

その他、飼い主の生活様式(あまり運動しない)、肥満に対する考え方(肥満に対して寛容かどうかなど)にも左右されます。

飼い主が肥満の場合にもネコの肥満傾向は増加します。

肥満したペットは肥満した人間と同様な疾患にかかりやすくなります。

さらに、腫瘍(ガン)にもかかりやすいとも言われ、これらの病気にかかることで寿命を短くするのではないかと言われています。

また、肥満は手術時の麻酔の危険性を増大させ、術後の合併症(感染等)の危険性を大きくします。

それでは、もう少し詳しく肥満の原因、診断、弊害、減量方法、食事管理について、それぞれ見てみましょう。

 

 

なぜ太るのでしょうか?

肥満の引き金は過食です。

簡単に言えば、消費するよりも多くのエネルギーを摂取するから肥満になるのです。

これを病気による肥満と区別する意味で、単純肥満と呼ぶこともあります。

病気が原因で肥満になることもありますので、単純肥満かどうかの鑑別診断は必要です。

単純肥満と区別しなければならない病気として、腹水の貯留、全身性の浮腫(ムクミ)、腹部内臓の腫瘍、甲状腺機能低下症、クッシング症候群などがあります。

また、遺伝的な要因によって肥満になるネコもいるようです。

それでは、エネルギーの摂取と消費のバランスを崩す要因にはどのようなものがあり、それが、どのように体重に影響を与えているのかを見てみましょう。

 

性別

一般的に雌ネコと避妊・去勢手術を受けたネコは肥満しやすいと言われています。

雌ネコの場合は本来繁殖するための栄養を蓄積する傾向があるためです。

また、通常は繁殖期には異性を求めて徘徊行動をするので、エネルギー消費されますが、避妊・去勢手術を受けますと、うろつく必要もなくなりますのでエネルギー消費量が減少します。

 

年齢

統計的にみますと肥満の傾向は5~6歳の中年の頃になりますと、かなり高くなります。

およそ12歳頃までは家庭ネコの約40%以上が肥満傾向を示すという報告もあります。

これは中年以降、ネコの新陳代謝率は低下するためです。

中年ネコの基礎代謝をヤングアダルト時代と比較すると約20% 減少することがわかっていますが、多くの飼い主はその変化に気づかず、それまでと同じ食事を同じ量だけ与えるために肥満となってゆきます。

同じようなことは成熟前にもみられます。

成長期のピーク(生後7~8カ月頃まで)はエネルギー必要量が高いのですが、成熟するに従いエネルギー必要量はじょじょに低下します。

このとき、多くの飼い主は成長期のピークのときの食欲と食事量が生涯にわたる「健康のバロメーター」だと誤解します。

むしろ、成熟に伴いネコが食欲低下した時、飼い主は心配するあまり何とか食べてもらおうとして、いろいろ食事の種類を変え、よりおいしい物を食べさせようとします。

これが肥満の始まりになるのです。

注意して頂きたいのは、成熟後の中年期の肥満に比較して、成長期の肥満は脂肪細胞の数の増加を伴いますので、一度肥満になると、ウエイトコントロールが困難になるということです。

 

おいしいキャットフード

ペットショップやスーパーのペットフード売り場に行きますと実に様々なペットフードが見られます。

そして、最近のキャットフードはかなりおいしいものが多々販売されています。

中にはおいし過ぎて、ついつい過食してしまうものもありますが、これが肥満の原因という人もいます。

食欲の有無を健康のバロメーターとすること自体は誤りではありません。

しかし、食欲をそそりすぎて、必要カロリー以上摂取することが問題なのです。

おいし過ぎるキャットフードはその危険性を高めてしまうのです。

 

飼い主の生活様式

飼い主が単身または共働きの場合、飼い主は留守の時間が長くなります。

飼い主が留守の間、ネコは手持ちぶさたでゴロゴロしています。

この場合、キャットフードの与え方はどうしても自由給餌方法になることが多いのです。

自由給餌とはドライフードをお皿に盛り、ネコが好きなときに好きなだけ食べられるようにする方法です。

暇なネコは食べることで暇をつぶします。

おいしいキャットフード要因に加え、帰宅した飼い主はネコの関心を引くためにグルメタイプのさらにおいしい缶詰を与え、ご機嫌を取ります。

これでは肥満しない方がおかしいですね。

また、飼い主が高齢か肥満で運動がおっくうになっている場合、「ネコじゃらし」等でネコと共に遊ぶことはあまりありません。

食べ物を与えることでネコの関心を引くことの方が圧倒的に多くなります。

また、健康と食事管理に無関心な飼い主の場合も、ネコに過剰な栄養・カロリーを与える結果となります。

さらに、太っていた方が、健康的で可愛いと思っている飼い主がまれにおられますが、これはまったく困ったものです。

 

ネコの個体差

ネコが必要とするおおよそのエネルギー要求量は、ネコの体重(㎏)を当てはめて求めることができます。

その計算式ですが、成長期や妊娠授乳等の状況に応じて、各種のファクター(係数)を乗じる必要があります。

 

 

必要エネルギー(kcal)量=係数×70×体重(kg)0.75

または

必要エネルギー(kcal)量=係数×[70+30×体重(kg)]

 

よく耳にするのは、「計算どおりの食事量を与えていたのに、太ってしまった」という苦情です。

そこで、もう一度考えて頂きたいのですが、この計算式はあくまでも目安であるということです。

いろいろ統計学的調査をして、平均的に、ネコの必要とするエネルギー量を算出すると、この計算式が導かきされてきたということなのです。

ということは、当然この計算式から、はずれるネコがいるということです。

このような場合は、実際のネコのエネルギー必要量を見極める必要があります。

それには地道な観察しかありません。

食べた量とその食事に含まれたエネルギー量を計算し、記録を付け、一定期間内の体重の変化を調べます。

そうすることにより、実際のエネルギー必要量がわかります。

その上で食事量を決定する必要があるでしょう。

 

 

肥満の評価

肥満の判断基準は、そのネコが理想体重を15%越えているかどうかです。

しかし、一般に飼い主は自分のペットの理想体重は把握しておらず、そのネコが肥満傾向にあることに気がつかないものです。

ですから、ネコが肥満であるかどうかの正確な診断は少々厄介です。

 

人間のように理想体重を算出するための計算式

標準体重=身長(m)の2乗×2

 

といったものもありませんし、機械を用いて体をスキャン(走査)し、体脂肪率を求める方法はイヌネコではまだ実験室レベルで行なわれているのみで、一般の動物病院では利用できません。

もし、そのネコの理想体重が記録されているのならば、そのネコが肥満かどうかは客観的、正確かつ容易に評価できます。

理想体重の目安としては、その子が成熟してから一年以内に測定した体重と考えれば大きく外れることはありません。

ただし、そのネコが成長期から肥満になっている場合は参考になりません。

理想体重の記録がない場合は推定するしかありません。

その場合、ボディ・コンディション・スコア (BCS) 表を参照するのがもっとも便利です。

その子の状態がどの段階に位置するのかを把握し、推定された体脂肪率から理想体重を逆算します。

BCS診断方法としては、ネコの腹部を触診し、皮下脂肪の沈着具合を調べます。

さらに前足を持って後ろ足で立たせる格好をさせ、お腹の部分に、エプロンを巻いたような脂肪の沈着があるかどうかも確認します。

また、首の回りや臀部(尻尾の付け根)の脂肪の付き具合、腰部のくびれ具合などを診て決定します。

 

 

太っていてなぜ悪い?

肥満の有害な影響

平均余命率の低下と肥満との関係を最初に指摘したのはヒポクラテスで、彼は「突然死は痩せ過ぎの者よりも太っている者の方が多い」と言っています。

イヌや実験用のマウス、ラットにも肥満による健康上の多くのリスクが知られています。

肥満しますと様々な変化が体に起こります。

肥満して体重が重くなることにより、関節に負担がかかり、運動も思うようにできなくなります。

肥満は脂肪組織が過剰に付着している状況ですが、脂肪細胞は生きた細胞なので、酸素と栄養の供給が必要で、それらは血管を通して運ばれます。

そのため、肥満ネコは痩せたネコよりも毛細血管が発達し、血管を一本につなぐと痩せたネコよりも、かなり長くなります。

となると、その分、循環する血液の量を増やさないといけません。

体全体の水分量も増加します。

その結果、心臓の拍出時の力や心拍数が増加し、血圧が上がり、心臓に負担をかけます。

心臓に負担がかかると運動ができなくなります。

肥満はこのように、心臓と血管系に対し深刻な影響を与えます。

また、肥満するとインシュリンというホルモンへの反応性が低下するなどにより、糖尿病傾向が高まることもあります。

その他、腫瘍発生、皮膚病、生殖器の疾患、バクテリア、ウイルス感染率上昇、高脂血症などのリスクを高めることがイヌおよび人間の研究で明かにされています。

肥満は多くの病気の源と考えるべきでしょう。

このような肥満による病気の素因は、幸い、ネコを減量させて理想体重に戻すか、もしくはそれに近づけさせればリスクが減少し、健康を取り戻すことができます。

 

 

ダイエットのレシピ (肥満の治療)

それでは減量するにはどうしたら良いのでしょうか?

また、減量に成功し、適正体重に戻ったら、どのようにその体重を維持したら良いのでしょうか。

このように減量したり、体重の維持・管理したりすることをウエイトコントロールといいます。

ウエイトコントロールの方法について考えてみましょう。

人間の場合、減量方法には五つの方法があります。

 

1)運動療法
2) ダイエット*(食事療法)
3) 心理サポート
4) 薬物療法
5) 外科手術

 

(*ダイエットの本来の意味は食事です。それを減量と混同して使っているのが現状です)
人間の典型的な肥満患者については心理サポート、運動療法、食事療法のいずれもが密接な相互作用があり、しかも相互補完的であるとされています。

ですから、国際肥満症学会はこれら三者を併用することを推奨しています。

薬物療法は現在、有効な薬の開発の真っ最中です。

外科手術は効果が低く、しかも危険を伴うことが多いので奨められていません。

 

1) 運動療法

体に蓄積された脂肪組織を燃焼させることが肥満の解消につながります。

しかし、ネコの場合、どのような方法で運動量を増加させるかが大きな問題です。

イヌの場合はリードを付けて、散歩時間と走る速度を増加するなど、比較的簡単な方法で運動量を増やすこができます。

逆に飼い主が張り切りすぎて、急激に運動量を増加させ心臓への負担が問題になることがあります。

ネコの場合、散歩はできませんし、放し飼いも伝染病の心配があるのでできません。

やはり、家の中での運動量増加が必要になります。

ネコの場合、平面運動よりも上下運動の方を好みますし、その運動が効果的ですので、家の広さとはあまり関係ありません。

ネコがエキサイトできるような、興味を示すような運動具を設置してあげましょう。

例えば、木登りできるツリー、天井近くに休憩場所を設置し、そこへ「はしご」を設ける、タンスとタンスの間に平均台のように細い板を橋渡しするなどです。

また、極力、一緒にネコジャラシで遊んであることも重要でしょう。

 

2)ダイエット(食事療法)

ダイエットによる肥満症の治療は全面的なカロリー制限(絶食)か、あるいは中程度のカロリー制限をする方法があります。

絶食による減量は健康面への危険度が高いため、後者の中程度のカロリー制限が推奨されています。

ネコは絶食により、肝リピドーシスという脂肪肝症候群を起こし、命に関わることがわかっているからです。

中程度のカロリー制限とは、まず、適正体重を設定し、その推定した最適体重を維持するために必要なエネルギー量の70%程度に制限して食事を与える方法です。

中程度のカロリー制限の方法には二通りの方法があります。

一つは通常食べている食事の量を減少する方法で、もう一つは低脂肪・高繊維覧の組成になっている食事を通常食べている量とあまり変わらない量を与える方法です。

通常の食事の量を減らすだけでは、空腹感が伴います。

しかも必要な栄養素であるタンパク質やビタミン、ミネラル類までも摂取量が減少し、筋肉や内臓を示すリーンボディマス(除脂肪体組織量)の減少や、骨の密度が低下するなどの体の構成成分の変化を起こし、健康状態を崩す原因となります。

さらに基礎代謝率そのものが低下し、かえって目的とは反対の方向へ向かってしまいます。

ですから、最も推奨できる方法が後者の「低脂肪・高繊維質で、しかも他の栄養素はバランス良く含有」されている食事を選択することです。

 

3) 心理サポート

人間ならば、減量に成功すると健康を増進でき、美容的観点からも努力する価値があることは明瞭に理解できます。

ですから、医師は減量に取り組んでいる患者に対しては常にアドバイスを与え、激励をします。

「もう少しがまんしましょう、頑張りましょう」といった心理サポートは大変有効です。

しかし、ペットは言葉も理解できないし、なぜ体重を減らさなければならないのかもわかりません。

ですから、飼い主は適切な減量プログラムを獣医師から指示されたら、それがその子のためになることなのだと強く思うことが大切です。

そして、飼い主が曖昧で、すぐに方針を変更したり、家族の中に「裏切り者」がいて、ネコの関心を引くために「おやつ」を与えてしまったりしては、減量プログラムは失敗します。

ネコの満足は一緒に遊んであげることで達成させる必要があるのです。

そして、飼い主であるあなた自身が気弱にならないためにも、定期的に獣医師のもとに足を運び、ネコの減量の効果を確認し、納得することが必要でしょう。

 

 

ダイエットフードト(減量用の食事)

低脂肪・高繊維質(乾物量分析値で脂肪が10%未満、繊維質15~25%)の食事は、食事中に含まれるエネルギーを制限するうえで効果的です。

繊維質はエネルギーの供給源とはなりませんが、物理的に胃/腸管を満たし、「満腹感」を与えるものです。

ですから、高繊維食事を与えるとネコは「ひもじい」思いをしなくてすむのです。

飼い主も「ネコに苦しい思いをさせている」といった罪悪感がなく、受け入れることができます。

また、食物中の繊維質は栄養素を消化酵素から隔離させ、分解吸収率を低下させ、エネルギー栄養素の利用率を低下させます。

このような効果が総合的に働き合ってカロリーカットができるのです。

このような食事は自家製でも作れますが、繁雑で、的確な栄養バランスの食事を準備することは栄養学的知識と熟練が要求されます。

幸い、減量用の食事は獣医さんのところで求めることが可能です。

その子の好み(缶詰かドライか等)、食事中のカロリー量等は製品によって異なるので、どのような食事を選択するかは、獣医師に相談しましょう。

また、食事を摂取すると、消化のために胃や腸管の運動が活発化したり、消化酵素を合成し、分泌するための代謝率が上昇したりする等の生理学的理由から、余分な熱産生が起こります。

この余分な熱産生によってもエネルギーを消耗します。

ですから、減量を効果的に行なうためにはこの生理活動を利用します。

すなわち、前記のような減量に適した食事を選択したら、1日量を1日に何回かに分けて与えます。

そうすることにより、より効率的に減量の目的を達成することができます。

具体的な減量プログラムは次ページの表に示します。

 

なお、食事の変更は必ずじょじょに行なってください。

ご存じのとおり、成ネコは一般的に食事の変更にはなかなか対応してくれません。

頑固に従来のフードに固執する子が多く、無理矢理に変更すると「全く食べない」状態になることがあります。

これはかえって危険で、食べない状態が3日間続くと、前述の肝リピドーシスという病気になる危険性が大変高まります。

獣医師の指導のもと、ゆっくりと10日から2週間かけて、少しずつ新しい食事に慣らしてください。

 

 

減量用食事管理プログラム

減量に先立ち、家族全員でプログラムの理解を行ない、家族全員の協力の下、プログラムを開始します。

その後2週間毎に定期的に来院し体重測定と健康診断を受けます。

グラフにプロットして、減量効果が出ているかどうかを家族全員で理解するようにしましょう。

目標体重に達し、まだ肥満なら次の目標を設定し、新たなブログラム下で再開しましょう。

 

適正体重の維持

減量に成功したら、次はその適正な体重の維持をどのようにするかです。

肥満していた子は肥満しやすい素因を持っていたわけですから、気を緩めると、またすぐに元に戻りかねません。

減量が食事管理によって成功した後は、食事管理で体重の維持が必要です。

すなわち、減量用食事ほどではないにしても、ある程度カロリーを控え目にした食事が必要です。

これも、獣医師のところで、求めることができますので、ご相談ください。

 

 

 

肥満ネコの減量プログラム

a)
ネコの推定理想体重を設定し、その体重での維持エネルギー必要量(MER)を決定します。
無理な計画にならないように、現状の15%から20%低い体重を設定します。

b)
設定維持エネルギーの70%を1日の供与エネルギー量とします。
ネコでの急激な減量は肝リピドーシスを招き兼ねないので2〜4カ月かけて目的体重に近づけるようにします。

C)
減量に用いる食事のエネルギー濃度を知る(獣医師から聞いてください)。

d)
b÷cで1日の給餌量を求める。

e)
1日の給餌量を数回に分けて与える。
食事回数を増やすことにより胃腸運動の増加、消化酵素分泌と食事誘導性熱産生により、エネルギー消費を増加することができます。

f)
(過剰体重×7700)-(設定MER-0.7×設定MER)=減量に要する日数