ネコまんまの栄養学
ネコはキャットフードだけという人も随分いますが、やはりネコに仕え、ネコの食事を作りたいという人もいます。
経済的に豊かでなかった時代は、そこらにあるものを適当に食べさせていたのでしょうが、豊かになり家族の一員などと言われる時代になっては、吟味した食べ物を準備したくもなります。
ネコまんまという言葉があるくらいですから、日本の文化の中にはネコの食べ物のイメージが定着していました。
そのネコまんまと言葉も次第に過去のものになりつつあり、もう作る人もほとんどないようです。
米と魚という確かに日本の食文化の代表ですが、ネコにとっての理想的な食事とは言えないようです。
もっとも、人との関係がゆるやかな日本のネコたちは、ネコまんまだけに頼らず自前のネズミや小鳥で不足する栄養を補っていたのでしょうか。
米の栄養学を少しかじってみまってしょう。
米と麦を比べると米は糖質が多く、麦はタンパク質が多い食物です。
米は食べる形のご飯にしても、栄養的に消化率が良くなるくらいで変化はありません。
小麦の代表的な加工食品はパンですが、バターを使ったりして成分に変化が出ます。
ネコはパンを食べないと思っているでしょうが、日本人だからそう思うだけでネコもパンを食べます。
米は病ネコ用の食材として、消化が良いこと、アレルギーが少ないことなどから安定したカロリー源として頻繁に使われます。
もう一つの主役である鰹節についてかじってみましょう。
カロリーは356キロカロリーと米と同じですが、タンパク質が77.1、脂肪が2.9で、米とタンパク質、糖質が入れ代わっています。
カルシム28mg、リン790mgと大変な高リン食になっています。
ネコまんまの鰹節の量を多くすればタンパク質と糖質のバランスは良いのですが、ネコに必要な脂肪やミネラルは欠乏するか極端なアンバランスで大変問題のある食事です。
やはり今はネコまんまの時代ではないようです。
ネコの食の民俗学
日本のネコが魚が好きだということは誰も疑いませんが、欧米の動物の栄養学者はネコに魚はふさわしくないと固く信じています。
北アフリカの乾燥地帯で生まれたネコに、魚との出会はなかったというのが彼らの主張です。
しかも魚はネコの健康にとってトラブルのもとだと信じて疑わない彼らは、けっしてネコに魚を食べさせることはないでしょう。
しかし、彼らがどう言おうと日本のネコのみならず、世界のネコは魚が好きで、ネコのDNAの中に魚のマークがあるはずです。
栄養学者がなんと言おうとネコはネコになった時から魚を食べていました。
古代ギリシャ人が残した当時の記録には、エジプトのネコなる動物はミルクとパンと魚を食べると書かれています。
欧米の食文化の発祥地みたいなエジプトは、パンとワインとビールを作りました。
ウシやヒツジを飼い、カモやハトなどの鳥を食べ、ナイルの魚を常食にしていました。
ネコがバステト神として神になったときから、エジプト人の食べる物を食べていました。
神なる動物は殿の深くに飼われ、人の感覚で最高の食事を与えられていたのです。
ネコの食事の時はネコの周りで風を送り、食事の間は音楽が奏でられていたそうです。
宗教と食べ物が関係あることは誰でも知っていることで、今のエジプトはムスリムですから豚肉は食べません。
世界中誰でも食べ、宗教上のタブーのない鳥肉がエジプトでも主に食べられているようで、人の食べ残しの肉が与えられていました。
家庭では主婦が食事係のようですが、町中にあふれているネコたちの食事係は市場の男たちです。
ムスリムは教祖マホメッドが大のネコ好きだったことを良く知っていて、ネコに寛大でレストランや市場の周囲をうろうろすることを許しています。
東南アジアから東アジアの米を食べる地域は、麦を食べる地域に比べ高温多湿で水のあふれる国です。
海に近い地域は海の魚を、内陸部は淡水の魚を当然のように食べますが、タンパク源はやはり人の残した肉が中心のようです。
その中で日本だけが肉を食べず、タンパク源として魚だけになってしまいました。
もっとも今でもイヌやネコの地位は低いようで、イヌほど迫害はされませんが、ネコの食事のために毎日頭を悩ますということはないようです。
欧米の工業生産先進国はすべて麦が主食の地域で、苛酷な気候からは麦の栽培と牧畜が一番適していたのでしょう。
もちろん、人の食べ残しの肉がネコの食事の中心で、ネコの肉売りという職業もありました。
日本も含めて工業先進国の現在のネコの食べ物の中心はキャットフードです。
その中で日本だけが肉食の歴史がなかったものですから、キャットフードも魚を使ったネコ缶にこだわるのでしょう。
しかしその前提にネコが魚が好きだということがあるわけで、魚を食べる文化の中にいてもイヌは魚が嫌いです。
素材の知識
ネコと一緒に暮らす楽しみの一つがネコの世話をすることにありますから、ネコのために自分で材料を買い集め調理する人もたくさんいます。
ただ古代エジプト人の神殿で神として飼われていたネコには、人が好きなものはネコも好きだという考えで、考えられるだけ豪華な食事を準備したそうです。
人に豪華な食事であっても、人とは栄養要求量も味覚も違いますから、ネコには迷惑な話だったでしょう。
少しネコに対する知識と、食物に対する知識があればネコも楽しい神殿暮らしがおくれたのではないでしょうか。
今は古代エジプトより、ネコについても食物についても情報がありますので少し説明をしましょう。
肉類
肉にもいろんな種類があり栄養的に多少違いはありますが、肉としての共通の性質があります。
私たちやネコが食べる肉は筋肉という一つの臓器ですから、筋肉としての栄養組成があります。
臓器の中では単純な機能しかありませんから、成分も偏ったものになっています。
肉に過剰なタンパク質が含まれているのはどれも同じですが、脂肪は種類により違いがあり、それがカロリーの違いになっています。
カルシウム、リン、ナトリウム、鉄、銅、ヨウ素、ビタミンA・D・Eなどの微量成分はあまり含まれていませんが、なぜか豚肉にはB1が多く含まれています。
微量成分の中でも特にカルシウムとリンはバランスが大切なのですが、肉類はカルシウムが極端に少なくリンが多くなってしまいます。
バランスを整えるため肉にカルシウムを加えたとしても、その他の微量成分が不足し、その成分調節をする必要があります。
魚
魚は身だけをとれば高タンパク質であることは肉類と同じです。
ただ肉より丸ごと利用したり、加工して利用することが多く微量成分にはかなり違いがあります。
そして何より違うのは脂肪で、肉の脂肪が飽和脂肪酸なのに対して魚は固まらない不飽和脂肪酸です。
不飽和脂肪酸は酸化しやすいという欠点がありますが、生体にとって重要な働きをもっています。
魚の特徴は生と加工では成分に違いが出てくることで、加工品の種類により変化する成分も違います。
あじとあじの干物ではリンが増えるくらいでほとんど変化がないのに比べ、かつおの生となまりではカロリーに大きい変化があります。
青身の魚
ネコに使われる魚のほとんどがこのグループで、キャットフードの缶詰も、カツオ、マグロが多いのです。
加工していない、生身の魚としてはタンパク質は20~30%前後で、肉類よりやや多くなっています。
脂肪の量についてはまちまちですが、マグロの脂身が一番多いようです。
ほかにはイワシも脂肪は多いのですが、ネコはあまり好みません。
カルシウムとリンのバランスは肉よりややとれていますが、しかしまだまだリン過剰で、肉と比べても五十歩百歩と言うところです。
ビタミンEが肉に比べると多く含まれています。
また脂肪の多いものほど多い傾向にあります。
このことは、マグロの赤身と脂身を比べると理解しやすく、脂身の方に数倍のビタミンEが含まれています。
「青身の魚にはビタミンEが少なく、黄色脂肪症を起こす」と言われていますが、酸化されやすい不飽和脂肪酸を多く含む青身の魚には、多くのEが含まれていても、消費が激しく、欠乏するというのが本当のところです。
乾物魚介類
日本のネコに多く利用される食材として、干しエビ、煮干しなどの乾物魚介類があります。
たくさん使うものではありませんが、身近な物として簡単に特徴を覚えておきましょう。
干したサクラエビや煮干しはカルシウムに大変富んだ食材で、これらを少し加えることにより、肉や魚の過剰なリンとのバランスが修正されます。
ただ加工時に塩を添加することがあり、ナトリウムの過剰が起こることがあります。
レギュラーのドライフードなどは、もともとナトリウムが必要以上に含まれていることがあり、さらに煮干しなどを加えることは控えるべきです。
油脂
ネコの食事にバターやマーガリンなどの油脂類を加えることは、日本ではあまり行なわれていません。
ネコは脂肪を必要とする動物ですが、カロリーの高い食材ですから使い方に注意が必要です。
油脂類は脂肪酸の種類が大きく偏っているのが特徴で、カロリーオーバーとバランスのため小さじ一杯を超えないようにしてください。
脂肪と脂肪酸
脂肪はグリセリンと脂肪酸の結合した物で、脂肪酸には多くの種類がありますが、大別すると飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けられます。
この二つの簡単な分け方は、常温で固体となるの飽和脂肪酸で、動物の中に含まれています。
常温で液体となるのは不飽和脂肪酸で植物の中に多く含まれています。
今人間ではヘルシーメニューとして青身の魚が歓迎されていますが、数多くの不飽和脂肪酸を含んでいるためです。
では不飽和脂肪酸はどうして有用なのかと言いますと、これはビタミンEとも言われ、成長や皮膚の健康維持に欠くことのできないもので、コレステロールのバランスを保ったりします。
中でもエイコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸がコレステロール低下に役立つとも言われています。
しかし、ネコにとって重要なのはエイコサペンタエン酸からプロスタグランジンという物質が作られることで、プロスタグランジンのいろいろなタイプはそれぞれ血圧を調整したり、消化液の分泌、生殖活動の最先端に作用する物質として働いています。
瞬間的に大きな活動を必要とするネコ、また常に毛をなめ綺麗にし、感覚を磨いているネコには重要な栄養素で、常に補給したいものです。
しかし、不飽和脂肪酸には大きな欠点があり、すぐに酸化され不安定なことです。
体内で酸化されると細胞や酵素を破壊したり、リポフスチンという沈殿物となり、細胞の老化を進めます。
アジやナマリリを常食にしているネコに黄色脂肪症と言う脂肪の炎症が起こるのはこのためです。
いっぽうビタミンEは酸化を防止する作用があります。
これら不飽和脂肪酸を多く含む食物にはビタミンEも大量に含んでいるのは、その生物の生存にとって必要なための配慮でしょう。
しかし、ネコの食べ物としてはその食物中に含まれているEでは足りず、不飽和脂肪酸の多い食物を与えているときは、ビタミンEの添加が必要です。
通常キャットフードにはネコの健康のためと、フード自身の酸化防止のためにEは大量に含まれています。
「酸化」ということを考えると、ネコにはアジの干物などは不適当で、日本人の誇るべき食文化である、刺身を与えたほうがネコのためには良いようです。
卵、乳製品
卵黄
卵黄は30%が脂肪という高脂肪食です。
このような高脂肪の天然の動物食品はほかに例がありません。
ヒヨコを育てるための完全なものということでしょう。
もちろんネコには完全なものではありません。
しかし高カロリー、脂肪食としての利用価値は高く、消化率もほぼ100%で、生まれてすぐの子ネコから老ネコまで、すべてに安全に使える数少ないものです。
牛乳
牛乳はカルシウムの多い食品と言われています。
実際バランスも良いのですが、水物のため少量で済まないところが欠点です。
もちろん人間以上に牛乳を飲むと下痢をするネコがいます。
これは牛乳中の乳糖、ラクトースを消化する腸内酵素ラクターゼが少ないことが原因です。
下痢さえしなければネコに与えて問題はありません。
プロセス・チーズ
日本で売られているチーズのほとんどがプロセス・チーズで、ナチュラル・チーズを加熱殺菌し箱に詰めたもので、乳酸菌はすでに死んでいます。
牛乳を濃縮したものですから、成分は量的にはそのまま増えています。
高タンパク、高脂肪、そして高カルシウムの食品です。
ビタミンAも多量に含まれています。
外国ではとにかくよく使われるネコの食べ物です。
パルメザン・チーズ
粉チーズで高タンパク、高脂肪の食物で、粉の特性を生かして混ぜものとして使います。
少量でカロリーとカルシウムが補給できます。
レバー
レバーも日本ではあまり使われませんが、外国ではよく使われる食べ物です。
栄養的にはかなり特異的なもので、タンパクや脂肪の量はほかの肉などとさほど変わりませんが、微量成分に特徴があります。
ビタミンAが4万単位と異常に多く含まれています。
カルシウム、リンは肉同様アンバランスです。
しかし、ほかの鉄、カリウム、ビタミンB、Cなどもかなり含まれています。
子ネコから老ネコまで、レバー・ジュースとしたり、生、煮沸、いずれの方法でも利用可能ですが、多く与えすぎると下痢をしたり、ビタミンA過剰症を起こすので、少量使うべき食物です。
少量使えば素晴らしいものです。
穀類、野菜
穀類、野菜は原則としてあまり必要ではありません。
しかし、自分で食べ物を運ぶことのできない今のネコたちにとって、魚や肉だけではどうしてもビタミンや微量な栄養素のアンバランスを起こします。
また経済的にも負担増となります。
とは言っても肉食獣であるネコは、植物性食物を消化するのが苦手で、もちろん生では利用できません。
中には火を通し、さらにつぶしてあげなくてはいけないものもあります。
植物性食物のもう一つの作用は繊維で、いちおう構造的には炭水化物の中へ入れますが、これを消化できるのは草食獣だけで、人間はもちろんイヌやネコもカロリーとしては利用できません。
繊維はカロリー源としてではなく消化管の刺激としての評価が人間と同様、イヌやネコにも言われています。
この特性を利用して肥満の人間や、動物の食事に利用されます。
人間もネコもある程度満腹感がなければ満足しません。
ご飯
炭水化物だけの食べ物とも言えますが、穀類の中では一番消化吸収率が良く、ネコでもほぼ100%利用できます。
もちろん炭水化物が多ければ脂肪として蓄積されますので、肥満の原因にもなります。
カロリー的には脂肪の少ない肉や魚と大差はありません。
ほかのマカロニやうどん類もほとんど同様の傾向を示しますが、ネコにとってはやや食べにくいというだけです。
グリーンピース
植物性のものとしてはタンパク含有量は良い方です。
アメリカでは少量が良く添加されますが、大豆とあずき以外は豆とつき合いの少ない日本人としてはあまり使いません。
スプーンでつぶして食事に混ぜて使うと良いでしょう。
ニンジン
ニンジンもキャットフードには使われます。
さいの目に切って火を通しても、調理時間が短いと、ほとんどそのままの形で便に出てきます。
与えるときは崩れるくらい柔らかくなるまでゆでて、それをサラダオイルかバターでさらに炒め、つぶして与えます。
ニンジンにはβカロテンが多く含まれていて、これは油脂と一緒に摂るとビタミンAとして吸収されやすくなります。
トウモロコシ
クリーム・タイプと粒のものが缶詰として売られています。
ネコに使えるのはクリーム状のもので、粒状のものは消化が悪いようです。
消化率は米に比べればずいぶん劣ります。