ネコの基礎的栄養学

ネコの食事

動物によって異なる栄養の摂り方

 

ネコでも人でもウシでも、体を作るにはタンパク質や脂肪が必要であり、体調を整えるにはビタミンやミネラルが必要であるというように、同じような栄養が必要なわけです。

しかし、動物の種類によって食べ物、食べ方はさまざまであり、同じ栄養を摂っているとは思えません。

ウシは日がな草を食べているのに、トラは週に1回獲物を倒して食べるという具合です。

これは、それぞれの動物が進化の過程で獲得してきた適応、言い換えれば生きる道と言うところです。

ウシの食べる草はタンパク質を含んでいるわけですが、量も少なく、また動物にはなかなか利用しにくいものです。

これをウシは大きな胃の中で微生物の力を借りながら分解し、利用できるものだけ利用します。

残りは排泄し、栄養が足りなければさらに食べ続けるするのです。

一方、トラは食べると身になりやすい(利用しやすい)動物性タンパク質を狙います。

しかし、獲物が動物なので捕まえるのが一苦労です。

やっと1週間目に倒した貴重な獲物から、できるだけ多くの栄養を吸いとろうとします。

ビタミンやミネラルなどすべての栄養をその獲物から摂るために、内臓や消化管の中身まで食べます。

そして食べた物をこれまた体の中で無駄なく吸収し、次の獲物が得られるまでがまんするのです。

 

ネコの栄養の摂り方

 

ネコやトラなどの肉食の動物は、できるだけ栄養を利用しやすい(食べるとすぐ吸収できる)状態で食べて、無駄なく吸収するという傾向があります。

この傾向は同じ食肉目の中でもイヌ科よりネコ科の方が強いようです。

ネコ科は極めて肉食に適した体になっており、それだけ栄養の摂り方にも特徴があります。

一般的にペットとして飼われている動物も、当然のことながらその種類によって必要としている栄養は異なります。

この他にもネコならではの必要な微量栄養素もあります。

各栄養についての特徴、気をつける点を説明します。

 

 

水はすべての生物にとって最も重要な栄養であり、これを欠かすことはできません。

水は体の中で、細胞液、血液、リンパ液として存在し、さまざまな代謝反応が水の存在下で起きています。

また、物質を運搬したり、体温調節をしたり、多くの重要な役割を果たしているのです。

ところで、もともと乾燥した地域で生活していたネコはあまり水が得意ではありません。

イヌの多くは水浴びや泳ぎが好きですが、ネコはほとんどが水の中に入るのを嫌がります。

そんな環境で生きてきたネコにとっても水を摂ることの重要性は同じです。

ネコが水を摂る場合、直接水を飲む方法と食物に含まれる水分から摂る方法があります。

捕らえた動物をそのまま食べれば動物の体の6、7割が水分なので相当量の水分を摂っていることになり、これに比べると、水分10%程度のドライフードを食べている場合は飲む水の量が増えます。

水分は多めに撮り、余分な量を尿として排泄します。

ネコはイヌと比較すると、飲む水の量も少なく、排尿も少ない動物です。

トイレの世話をする飼い主にとって、これはすこぶる楽です。

いずれにせよ、ネコにとっても水は大切なものなので、いつでも好きなだけ新鮮な水が飲めるようにしてあげましょう。

 

エネルギーと炭水化物

 

炭水化物は、エネルギーとして利用できる糖質(可溶性無窒素物) と、ネコには消化吸収できない繊維の合わせたものです。

エネルギーは前述のとおり、この糖質とタンパク質、脂肪から得られます。

人の場合、エネルギー源として糖質が重要であり、タンパク質・脂肪だけでエネルギー全部を摂ろうと肉や魚ばかりの食事にすると、肝臓・腎臓などの内臓に負担がかかり過ぎます。

糖質は人にとって体に負担が少なく、しかも素早く吸収できる優しいエネルギー源といえるでしょう。

人が甘いものを好むのもうなずけます。

一方、徹底した肉食のネコはどうでしょう。

タンパク質や脂肪の多い動物性の食事を充分利用できるよう、それに適した体になっています。

したがって糖質はさほど重要な栄養素ではありません。

そのためかどうか、ネコは特に甘いものを好むとはいえないようです。

ただし、動物性の食物にはビタミンやミネラルが偏っているものが多く、これだけでエネルギーを賄おうとすると栄養バランスを崩すこともあるので適量の炭水化物を混ぜるとよいでしょう。

もともと繊維の少ない食事を摂っていたネコにとって繊維も重要とは思えませんが、便秘や下痢の予防などに多少の効果はあるでしょう。

その他に費用面で、同じエネルギー量を得るのにご飯などの炭水化物を利用すると安価になるという利点があります。

これらいくつかの点から、毎日の食事に炭水化物を利用するのは有効といえます。

市販されているドライフードの場合も炭水化物を多く含む穀類などを原料の一つとしています。

ただし、ネコは植物性のものは苦手なので、消化しやすいように充分加熱処理をして与えることが必要です。

 

高脂肪食のネコ

 

ネコは脂肪を消化するのは得意です。

炭水化物からエネルギーを摂りにくいぶん、脂肪から効率よく摂ります。

脂肪は同じ重量のタンパク質や炭水化物と比べると2倍以上のカロリーを持っています。

少量の貴重な獲物を大事に食べてきたネコにとって、このエネルギーを多く含む脂肪を残らず吸収することは生き残るうえで重要なことだったのです。

脂肪には、このエネルギー源としての役割のほか、必須脂肪酸や脂溶性ビタミンといった微量栄養素の供給や、食事のおいしさを高めるという役割があります。

脂肪はグリセリンに三つの脂肪酸がくっついてできています。

脂肪酸は酵素により、グリセリンから切り離され、体の中で利用されます。

免疫機能、皮膚・被毛の健康、生殖能力など、さまざまなことに関係する重要な物質です。

ネズミの学習能力を上げることで有名になったDHA (ドコサヘキサエン酸)も脂肪酸の一種です。

動物にとって必要な脂肪酸がいくつかあり、動物はこれを食べた脂肪から直接摂ったり、別の脂肪酸から合成したりします。

この必要な脂肪酸の中で、自分で合成することができず、直接食べ物から摂るしかないものを必須脂肪酸と呼びます。

ネコにとっての必須脂肪酸はリノール酸とアラキドン酸です。

リノール酸は植物油に多く含まれ、人やイヌなど大抵の動物はこのリノール酸からアラキドン酸を合成することができますが、ネコにはこれができません。

アラキドン酸は植物油には含まれておらず、動物性の脂肪に含まれています。

したがって、ネコには動物性の脂肪が絶対に必要なのです。

言い換えれ ば、徹底した肉食のネコにとって、アラキドン酸は食事から簡単に摂れるのだから、わざわざ体の中で合成する必要がなかったのです。

ビタミンには油に溶ける脂溶性ビタミンと水に溶ける水溶性ビタミンがあり、どちらも必要なものです。

脂溶性ビタミンは食事の脂肪の中にあります。

脂肪を吸収して利用し、余分量は脂肪に蓄積されます。

脂肪はこの脂溶性ビタミンの摂取に欠かせない媒体です。

食事のおいしさを高め、食欲を増進させるのも脂肪の大きな役割です。

やはり元気の素であるエネルギーを多く持っているので、少量の獲物で必死に生きようとする動物にとっては本当に大切な物であり、そういう物をおいしいと感じるように動物の体もできているのです。

本来、動物は自分に足りない栄養が食べたくなり、反対に栄養を摂り過ぎたらそれが嫌いになるのが自然です。

同じ物ばかり食べていると飽きるのは、栄養の偏りを防ぐ本能です。

昨今、人の社会では脂肪は大敵のように扱われることが多いものです。

確かに脂肪は肥満を招き、肥満は種々の病気を引き起こします。

それでも人は脂肪をおいしいと感じます。

おいしいと感じるものを食べて、健康を損なうというのはどうも動物としての本能に問題があるように思えます。

とはいえ、これが人という動物が築いてきたおもしろい文化なのでしょうか。

脂肪はなかなか文化を考えさせられる栄養素です。

 

低タンパク質に弱いネコ

 

タンパク質はネコにとって大切な栄養素であり(その必要量はイヌよりも多い)、 動物性の食物に多く含まれます。

タンパク質は体を構成する材料であり、また残りはエネルギーとして充分過ぎるほど活用されます。

肉食に適したネコは、他の動物と比べてタンパク質を利用(吸収・代謝)する能力に優れています。

タンパク質は、アミノ酸という物質が鎖のようにいくつも連なってできています。

動物は食べたタンパク質をアミノ酸に分解して吸収し、それから別のアミノ酸に合成したり、またそのアミノ酸を繋ぎ合わせてタンパク質を作るといった具合に利用します。

 

このアミノ酸も体の中で合成できず、食物から直接とらなければならないものがあります。

これが必須アミノ酸と呼ばれるものです。

ネコにとっては、リジン、アルギニン、メチオニン、タウリン、スレオニン、トリプトファン、ヒスチジン、ロイシン、イソロイシン、バリン、フェニルアラニンの11種類が必須アミノ酸になります (人の必須アミノ酸は8種類)。

この中で特にネコにとって特徴的なのがアルギニンとタウリンです。

アルギニンの欠乏は重篤なアンモニア中毒を起こし、死を伴うこともあります。

またタウリンはネコに特有の必須アミノ酸であり、欠乏すると目の網膜変性、失明を引き起こします。

このように万一欠乏すると生死に関わる症状 (野生のネコの場合、失明は死を意味する)となるものの、動物性食材を充分摂っていれば欠乏することはありません。

ネコは自分の健康を守るために、タンパク質、アミノ酸の少ない食事は好みません。

アミノ酸の不足が自分の命を縮めるのを知っているようです。

また、アミノ酸はその量だけでなく数種類のアミノ酸のバランスが重要です。

そのために多くの種類のタンパク質源を摂るべきです。

ネコは食事に飽きやすいとよく言われます(実際には、それほど多くの食物を好むわけでもないが)。

これもいつも同じタンパク質、アミノ酸ばかり摂るのではなく、いくつかの種類のタンパク質源を摂ろうとするネコなりの知恵といえるでしょう。

アミノ酸は人の食事の中でも、おいしさの素(旨味)としてよく使われています。

昆布だしの旨味であるグルタミン酸もアミノ酸の一つです。

アミノ酸はタンパク質が吸収されやすいように分解されている状態であり、動物にとって利用しやすいのでおいしく感じるのでしょう。

ひょっとすると、ネコの中には「このキャットフードは肝心のだし がいまひとつだ」などと、和食の鉄人ぶりを発揮しているものもいるかもしれません。

タンパク質がアミノ酸に分解されている食品としては、納豆、味噌・醤油、干物、漬物、塩辛、チーズなどが挙げられます。

これらの食品は多くのネコが好むのですが、保存用に多量の塩分を含む物が少なくありません。ネコに与えるときは少量にすべきです。

 

ネコに必要なビタミン

 

ビタミンは体の中で、タンパク質、脂肪、ミネラルなどの代謝に大きく関係し、成長や健康維持などの役割を担っています。

ビタミンにも多くの種類があり、その機能もそれぞれ異なります。

人の食品ではビタミン強化の健康食品がもてはやされていますが、ビタミンは何でも強化すれば良いというものでもありません。

摂り過ぎると中毒を起こすものもあります。

各種のビタミンは脂溶性と水溶性に分けられます。

脂溶性ビタミンは食物の脂肪中に含まれており、体に吸収された後も自らの脂肪に蓄積できます。

したがって吸収した量から必要量だけ利用、残りは脂肪に蓄積し、後で必要になったらまた利用できます。

しかし、どんどん蓄積され限度量を超えると中毒になってしまいます。

一方、水溶性ビタミンは必要量以上吸収した場合、余分量は尿中に排泄されるので中毒にはなりません。

ただし、一度に多量に摂っても蓄積されないので、頻繁に摂る必要があります。

ネコのビタミン必要量は人やイヌと比較して全体的に多いのですが、その中でも特にビタミンAとビタミンB群を多く必要とするのが特徴です。

人やイヌは緑黄色野菜などに含まれるBカロテンをビタミンAに変換しますが、ネコにはこの能力がありません。

ビタミンAを含む動物から直接摂ります。

また、タンパク質や脂肪の多い食事を摂るネコにとって、その代謝に関係しているビタミンB群の必要量も多いのです。

日本のネコは昔から魚を多く食べていたようです。

こういうネコにはビタミンEが特に必要となります。

魚(特にサバ、イワシなどの青魚)の油は不飽和脂肪酸が多いため酸敗しやすいのです。

ビタミンEにはこの酸化を抑える効果(抗酸化作用)があります。

魚の油を多量に食べて、その油が酸化するとネコは黄色脂肪症という病気になります。

そのときは多量のビタミンEが必要となります。

 

危ないミネラル過不足

 

ミネラル (灰分)は体(骨・歯・血液など)を構成し、またさまざまな生理機能になくてはならない微量栄養素です。

そしてその機能が正常に働くには、一つのミネラルの必要量を摂るだけでなく、他のミネラルやビタミンとのバランスがとれていることが必要です。

ここでも同じものばかり食べていると、このバランスを崩し弊害が起きます。

ネコは肉食だからといって、人の食品の肉、つまり精肉ばかり与えていると簡単にミネラルバランスを崩します。

カルシウムとリンはそのバランスが非常に重要で、カルシウムがリンの1.2~1.5倍の比率で摂らなければなりません。

ところが精肉の場合、リンがカルシウムの10倍以上含まれています。

穀類もリンの方が多く、米に含まれるリンはカルシウムの約10倍程 度です。

これらの食品は、カルシウムを豊富に含む骨(骨粉)、小魚、チーズなどでカルシウムを補う必要があります。

カルシウムの吸収にはビタミンDも関わっています。

カルシウムは腸管から吸収され、血液の中に溶けて体中の組織に運ばれ利用されます。

神経の伝達や血液凝固などに関わり体中で必要なのです。

そしてその多くが骨の形成に使われ、骨の中に蓄えられます。

血液中のカルシウムが少なくなると、骨の中のカルシウムが血液中に溶け出します。

ビタミンDはこの血液中のカルシウム濃度を上げるように働きます。

つまり、腸管からの吸収率を上げ、また骨からのカルシウムを溶け出させます。

ビタミンDが不足するとカルシウム吸収不足になり、骨が弱くなります。

逆にビタミンDが過剰な場合、食事の中にカルシウムが充分でないと、骨からのカルシウム溶出が増え、これも骨が弱くなってしまいます(さらに血液中の余分なカルシウムが心臓や気管などに沈着することになります)。

このビタミンDはネコの場合、自分の皮膚で紫外線により合成します。

つまり、 しっかり日向ぼっこをして自分の毛を舐めていればそこからビタミンDは摂れ、あまり欠乏することはありません。

反対にカルシウムが少なくてビタミンDの多い食品(レバー、卵黄など)ばかりを与えることが危険です。

マグネシウムの過剰はネコにとって病気の引き金になります。

ネコは泌尿器症候群(FUS)、つまり尿結石などによる尿路障害を起こしやすい動物です。

ネコは排尿の量、回数ともに少なく、尿を高度に濃縮します。

また、その尿壁道は細く、特に雄ネコの尿道は細くて長く詰まりやすい構造となっています。

ネコの尿結石の約9割が、マグネシウムを成分とする結石(ストルバイト結石)です。

尿結石の原因は、その他に飲水不足、運動不足、尿の高ph、微生物感染などが考えられますが、食事に含まれる過剰のマグネシウムが引き金となることは間違いありません。

マグネシウムも体の調整機能に関わっており必要な栄養素の一つなので、適量は摂らなければなりません。

しかし、多くの食材に含まれているので欠乏することはほとんどないようです。

マグネシウムは穀類や骨などに多く含まれ、これらはドライタイプのキャットフードの原料にもなっています。

メーカー各社ではドライフードのマグネシウム含有量を下げるために努力をしているようですが、ほとんどの製品がネコの必要量0.05% よりは高いようです。

事実、ほとんどの製品に「マグネシウムをできるだけ下げました」という意味の記述があります。

しかし、そのわりにはマグネシウムの含有量を表示していない製品も多くあります (表示は義務付けられていません)。

0.1%以下程度に抑えられているドライフードを利用すると良いでしょう。

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