繁殖というと妊娠中だけの管理だと思ってしまいますが、発情前からの体つくりや、健康管理が重要なのは言うまでもありません。
交配時のストレスや2カ月余りという妊娠期間を耐えて出産する体力と、母ネコと子ネコを守る免疫力が要求されます。
免疫力はワクチンなどの薬物も使いますが、食事管理が大切なのです。
繁殖を目指す人は交配前からワクチン接種や栄養管理に心がけ繁殖の準備を進めてください。
また飼っているネコが妊娠したときは、出産を目指して食事管理をしてください。
繁殖の前に
妊娠期間の2カ月余りと、それに続く2~3カ月の育児期間は母ネコにとって体力を使う大きな仕事です。
出産を予定したらまず体力を作ることが必要です。
健康な母親からでないと健康な子ネコが生まれ育たないことは言うまでもありません。
健康な子ネコに育たないということは、人と違って早い段階から母ネコと離れ、ときには過酷な環境に置かれる子ネコにとって命の危険さえ生じかねません。
環境の変化が体力を消耗することだけでなく、多くの病原体があるところを通過する場合など、それらの危険からも身を守らなければなりません。
抵抗力をつけるのは栄養と、ストレスのない環境と、そして免疫です。
もちろん肥満も、死産や難産そして不妊の原因となります。
肥満ネコの繁殖はまず体重管理から考える必要があります。
肥満ネコの減量は、交配後からでは間に合いません。
発情予定日の数カ月前からの管理が必要でしょう。
健康状態のチェック
雌ネコの最初の発情はまだ体の成長が充分でないことが多く、出産をさせるのは無理だと思った方がいいでしょう。
出産は体の成長が止まった後、つまり体重の増加がなくなってからの話になります。
もっとも一度安定した体重が減少していれば、体のどこかに異常があるということでやはり繁殖は無理です。
お産をさせるネコは定期的に体重を計り、健康状態をチェックすることが大切です。
体重が減っていれば原因を探り、特に問題がなければ高カロリー食を与えてください。
妊娠中に使える高カロリー食は動物病院で扱っています。
高カロリー食はキャットフードと同じものと、ミルク状、ゼリー状、粉末などいろんなタイプがあります。
その中から動物病院で扱っているものを紹介します。
病気の予防
ワクチンによって免疫をつけますが、今販売されているワクチンは、3種といわれる伝染性腸炎 (汎白血球減少症)、ネコカルシウイルス感染症、ネコヘルペスウイルス感染症と、4種といわれるネコ白血病ウイルス感染症が加わったもの、5種といわれるクラミジアの加わったものの3種類があります。
ワクチンというとどれも同じように効果があると思ってしまいますが、伝染性腸炎などは良い効果が得られる一方で、カルシウイルス、ヘルペスウイルスなどは余り良い効果が期待できませんし、ネコ白血病ウイルスやクラミジアも同じように考えていいと思います。
ネコの繁殖場や市場、ペットショップにはカルシウイルス、ヘルペスウイルス、クラミジアなどの伝染性呼吸器感染症の病原体がいっぱいです。
ただ救いがあるのは健康なら致死的なものではないということです。
一番怖い伝染性腸炎はワクチンの効果が期待できますから、交配前に雌ネコに接種しておくと生まれる子ネコには良い免疫ができると思います。
ネコ白血病ウイルス、ネコエイズウイルス、ネコ伝染性腹膜炎ウイルスは雌雄ともに交配前に検査をして、陰性であることを確認することは義務です。
ワクチンもすべての病気を予防するわけではありませんが、何もしないより良いことで交配前に混合ワクチンを接種することです。
ワクチン接種をする意味は一頭のネコを守るということと、ネコ全体から病原体を無くすという意味もあり、もう少し普及すればネコの伝染病も減るでしょう。
こういったことからお奨めできるのは、交配前に5種混合ワクチンを接種することです。
もちろんワクチンには副作用があります。
生ワクチンは弱くしたウイルスそのものがネコの体の中に入ることです。
不活化ワクチンはアジュバンドという活性を高める添加物が入っています。
どちらも発熱などの原因になります。
交配後や直前より少なくとも1週間前くらいには接種したいものです。
寄生虫もコクシジュウム、ジアルジア、トリコモナスなどの原虫が増えています。
耳の中の耳疥癬も交配前に治療しておきたいものです。
交配前後の管理
発情中の雌ネコは感情が高ぶり行動も不安定です。
なかには全く食欲がなく食べないネコもいて、長く不安定な状態が続くと急速に体重が減少します。
ネコは交尾排卵ですから、交配で発情が終われば食欲も回復し体重も増えてきます。
もし食欲が回復しなければ動物病院で診察を受けてください。
交配のために雌ネコを雄ネコのところへ連れて行きますが、ネコは環境の変化に大変弱く、交配のために雄のところへ送ると食べないことが普通に見られます。
1日ぐらい食べなくても問題はありませんが、体力の低下は免れません。
そこでゼリー状の高カロリー食などを舐めさせて体力を回復させるのも良い方法です。
またフェリフレンドやフェリウエイといったフェロモンなどを併用すると、精神的に落ち着いて食欲も出ます。
妊娠期
妊娠のしくみ
妊娠中のネコの食事を考えるには、まずネコの妊娠について理解する必要があります。
ネコの妊娠はもちろん排卵から始まりますが、その排卵は雄ネコの交尾刺激によって起こります。
つまり、交尾があれば妊娠する可能性が大きいということです。
交尾により受精した卵は分割しながらただよい、7~8日ぐらいたって、指定された子宮へ着床します。
つまり、ここから胎児としての発育が始まるわけです。
このころ母ネコのお腹を見ると、乳房の付近の毛が抜けて赤くチェリーピンクと呼ばれる状態になっています。
着床から40日余りで出産ということになりますから、その後の胎児の発育の早さがわかると思います。
もう一つの条件は胎児の数です。
当然のことながら1頭と6頭では母ネコの負担はずっと変わってきます。
交尾から3週を過ぎると超音波診断によって、胎児の心臓の動きを見ることができます。
交尾からーカ月くらいしたら確実になりますので、超音波で妊娠を確認すると良いでしょう。
もちろん小さくて人のように雌雄の判別は不可能です。
さらに1~2週間の検査でうまくいけば、何頭いるか確認することもでき、その後の管理の参考になるでしょう。
レントゲンでも診断できますが、こちらは45日以後でないと確認できません。
しかも、何回も使えませんから、50日過ぎ、できれば55日ごろに検査するといいと思います。
そのころになると、数も大きさも確認できます。
ネコの妊娠のもう一つの特徴は、妊娠早期に流産が多いことです。
もし、おりものがあったとか、交尾後に出血があったなどということがあれば、流産かなと思ってください。
母ネコの栄養管理のもう一つのポイントは、ワンシーズン多発情ですから、出産して子ネコがいるのに次の発情がきてしまうことです。
まだ出産の体力が回復してないのに妊娠しますから、母ネコにとっては大きな負担になってしまいます。
妊娠中の栄養管理
次に妊娠ネコの必要カロリーを紹介します。
活発な普通のネコは体重1㎏あたり70~80キロカロリーを必要としますが、妊娠中は90キロカロリーとなります。
これはあくまで目安で、なぜか日本のネコは食べる量が少なく、多めのカロリーだと思ってください。
体重が増えていれば問題はありません。
妊娠ネコは多くのカロリーを必要とし、実際、妊娠初期から食欲も旺盛になり体重も増えてきます。
これは胎児が大きくなって栄養を必要とするというより、これからの胎児の発育や出産、育児に備えて脂肪を蓄えていると考えられています。
しかし、妊娠したからといって胃が大ききなるわけではありませんし、妊娠が進めば胎児が母ネコの胃を圧迫して一度にたくさん食べることはできません。
もともとネコは1回あたりの食事量が少ないのですから、妊娠したからといって急にたくさん食べることはできません。
カロリーの高いものや回数を多くしてカロリーを増強します。
妊娠中の栄養についてはタンパク質が35%(乾燥重量、つまり水分を含まない)以上で、もちろん消化率の高い動物性タンパク質が 求められています。
タンパク質の少ない食事は死産、未熟児、子ネコの免疫力低下などの原因になります。
さらに妊娠末期にタンパク質が少ないと、行動上に問題のある子ネコが生まれます。
動物性食物が多ければタウリン欠乏になることはありません。
脂肪は少なくとも18%以上が必要で、脂肪量が少ないと出産数の減少、胎児の死亡率の増加が起こります。
カルシウムとリンの量と比率はキャットフードの場合充分調整されていますが、肉や魚を中心に与えている場合は欠乏が起こります。
このような場合、ネコ用のサプリメントとしてのミネラル補給が必要になるでしょう。
授乳中の栄養
母ネコは出産でお腹に胎児がいなくなると妊娠前の体重に戻ると考えてしまいますが、実は妊娠中の体重増加は胎児の重さ以外に授乳に備えての脂肪の増加もあります。
したがって出産後の母ネコの体重は交配前より、700~900g多いのが普通です。
また子ネコの体重も100 gは欲しいものです。
もし交配前より体重が増えていなければ、体力に問題があり子ネコへの授乳も負担になるということです。
このような母ネコから生まれた子ネコは、往々にして80g前後と小さく不活発なことが少なくありません。
このような場合、早めに離乳を考えてもいいでしょう。
また状況によっては哺乳の必要があるでしょう。
母ネコは出産の当日、もしくは翌1日ぐらいは食欲がありませんが、2日も過ぎるとたくさん食べるようになります。
母ネコからの子ネコへの初乳は、ネコでは12時間前後と考えられていて、その間に母乳を飲ませることが重要です。
子ネコが自分で飲まないときは絞ってでも飲ませます。
授乳中ですから子ネコが飲む母乳のタンパク質はすべて食事からまかなわれます。
母乳中のミルクには36%以上のタンパク質が含まれています。
ですから妊娠中のタンパク質要求量より授乳中の方が多くなるのは言うまでもありません。
したがって35%以上のタンパク質が含まれたキャットフードを使う必要があります。
脂肪も妊娠中と同じように濃縮した食物から効率よくカロリー補給をするため多めに必要としています。
魚が好きな日本のネコは心配ありませんが、魚に多く含まれる脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)が欠乏すると子ネコの網膜萎縮の原因となります。
イヌの授乳では子癇が多くみられ、カルシウムの注射で痙攣を抑えます。
ネコでは希ですが治療は同じです。
しかし、子癇を予防するために妊娠中からカルシウムをたくさん与えることは、かえって子癇を起こす原因になると考えられています。
食事の与え方
母ネコの性質にもよりますが、子ネコの側から離れるのを嫌がることも多いものです。
できれば産箱の側に水と食器を準備したほうがいいでしょう。
ドライフードと缶詰などのウエットのどちらがいいかは、母ネコの嗜好や家庭の生活スタイルによって違ってきます。
しかし、高いカロリーを必要としますから、カロリーやタンパク質の多く含まれているドライがいいと思います。
その場合は水を飲みやすくすることが必要です。
ただドライフードを高脂肪にすることは技術的に大変で、その点何でも使えるウエットは便利です。
ドライとウエットの混合が奨められます。